登場人物
1980年生まれ。千葉県出身。一橋大学商学部卒業後、外資系戦略コンサルティングファーム・モニターグループ入社。
2007年10月、株式会社レアジョブ設立。2015年、代表取締役会長就任。
インタビューをする為に雇われた、外部の人。
インターン生が、よく戻って来てません?
社内の色んな人をインタビューしていて気付いたんですが、レアジョブのインターンシップに昔参加していた学生の子が、新卒で他の会社に就職してからレアジョブに戻ってくる、みたいなパターンが結構ありますよね?

ありますね。今ブラジルで新規案件をやっている社員だったり、本気塾という新しいプロジェクトの責任者を務める社員、あとフィリピン・ミンダナオ島で活躍してる社員やオウンドメディアを運営してる社員 。
皆、インターンの後他の組織に属して、その後レアジョブに戻ってきてくれました。特に0を1にするフェーズを中心に、皆、第一線で活躍しています。
面白いですね。これは名付けて、“孵化放流採用(ふかほうりゅうさいよう)” ですか?
とんでもない名前を付けますね。それ、人工孵化させた稚魚を川に放流するやつじゃないですか(笑)
でも、インターンからそのまま採用するんでなく、一旦他の組織に放っている狙いというのは、どのあたりにあるんですか?
放っているというか、正直、全く狙ってはいなかったです。そういう風な採用をしようと思ってインターンをやっていたというわけではなくて、結果的にそういう良い流れが出来てきているだけですね。
創業1年目からインターンをやっているんですが、最近になってようやく、採用面でも良い効果が出てきたなあ、と。
彼らは、会社のカルチャーが深く共有され、他業種の経験もあり、英語もでき、0→1に強い、起業家人材。正直、うちからしたら最強ですね。
レアジョブのインターン
レアジョブのインターンって、どんなことをするんですか?
1年間休学してガッツリ社員同様働いてもらうインターンと、週2-3日うちに来て貰って一緒に働いて貰うもの、あとはフィリピンに行って半年以上生活しながら現地オフィスで働いてもらうものですね。
どれもガッツリですね。元々は、どういう意図でこの “ガッツリインターン” を始めたんですか?

僕自身が大学を休学し、ガッツリとインターンをしたんですよ。大学1年生の12月から、1年間の休学を挟み、翌夏までの1年半。ネット関係のベンチャー企業で、新規事業の立ち上げをやりました。
なるほど
初めて社会に出て実際にビジネスをしてみたわけですが、その時に感じた衝撃が物凄かったんです。ベンチャーって楽しいな、と。長い坂道を一緒に登っていくとどんどん仲間が増えていく、みたいな。
僕は新規事業をやらさせてもらっていて、ある程度までは成長させられて、最後に失敗したんですが、その経験を経て大学に戻ってみると、見える景色がまるで違っていました
ほぉ。しかし、どんな風に違ってしまったんですか?加藤さんの景色は。
大学1年目の時って、何も考えずに漫然と授業をとってたんですが、インターンから戻ってからは、自分は「語学・財務会計・リーダーシップ」以外のことは勉強しない、と明確に決めました。次にベンチャーに挑戦する際に自分に必要なものだけに絞ったんです。
自分が得意なこと、不得意なこと。また好きなこと、嫌いなこと。そして、大学の中で何を学べば将来どう役に立つのかということ。そういったことが、実際にビジネスをする中でとても明確になりました。
学習の出口が明確になったんですね。

それまでは、何を学ぶべきなのか、何の為に学んでいるのか、学んだことをどう生かすつもりなのか、ということが全くイメージ出来ていなかったので。
でも具体的に、どう変わるんですか?大学での勉強は
インターンを経て復学してからは、取捨選択して授業を取るようになりましたね。
伊藤邦雄という先生のゼミが、財務会計をつかった企業分析をグル−プワークとしてやっていたので、自分の必要そうな要素が詰まっていそうだなと思いこれを選択しました。グループワークはとてもヘビーで、リーダーシップのいい勉強になりました。
なるほど。でも確かに、何の為に学んでいるのか、何を学ぶべきなのかって、具体的にイメージ出来てる大学生、少ないですもんね実際。
ほとんどの場合において、授業を選ぶに際して重要な指数と言えば「その授業は、楽勝なのかどうか」です。ドヤ顔で言うことではないですが。

普通はそんなもんだと思います(笑)
あのインターンというのは自分にとってかけがえの無い体験で、その後の様々な選択に大きな影響を与えたので、後に自分が起業した際にも、後進の学生たちにもそういう経験をさせてあげたいな、と自然に思いましたね。
なるほど。学生のために。
というか、自分が、自分の経験したことを他の人にも体験してもらうのが純粋に好きなだけですね(笑)学生さんが成長しているのを見るのが単純に好きなだけです。
学生を囲わない
でも、レアジョブでインターンしたは良いものの、いざ就活になると「やっぱり大手ぇぇええええ!!」ってなっちゃう学生多いんじゃないですか?なんだかんだ大手のネームバリューには勝てないというか、そういう印象があります。
はい。はっきり言って多いです(笑)
ですよね(笑)
僕自身そうでしたからね。インターン行って変わった!と言いながら、その後は大手のコンサルに新卒で入りました。
しっかり大手入ったんですね(笑)

結局レアジョブのインターンで何かを感じたとしても、大手で働くことがどういうことなのかというイメージは、大手企業で働いてみないと分からないですからね。
じゃあ、優秀なインターン生がいたら、やはり首根っこ掴んでどうにか口説き落とすんですか?「ゴルぁあうちに来いやぁああ」みたいな?
そこまでゴリゴリのアプローチは、全然とっていないです。
なんでですか?
いや、結局、「万人にとって大手の方が良い」とか、「ベンチャーの方が良い」とかは、無いと思うんです。大手に合う人もいればベンチャーに合う人もいる、というだけで。
だから、ベンチャーでしか働いた経験の無い人に、「絶対にベンチャーの方が良い」と言い切ることは出来ないですよね。
まあそうですね。
だから学生側のことを考えると、強引に囲い込むみたいなことは、なかなか出来ないですね。
そうすると、新卒で他の会社に入ったり、インターンの後に他の道に進んだ人が帰ってくるというのはどういう流れなんですか?突然加藤さん宛に連絡があるんですか?「今の仕事がつまらなくて死にそうです…」みたいな?

そうですね、まあイメージとしてはそんな感じですかね。たぶん、「何となく今の会社だとか組織、ハマらないなぁ」という考えの子がレアジョブに戻りたいなと思ってくれるんだと思います。
例えばどんなですか?母川回帰のシーン。
フィリピンでインターンをしていた学生がいて、卒業後は超大手企業でバリバリやっていたのですが、レアジョブについての記事をたまたまシェアしてくれたんですね。だから僕は「シェア有難う!」とメッセージしたんですよ。
はい
そしたら、「今度ご飯連れて行って下さい」という流れになり、結局色々と話しているうちに、レアジョブに来て新規ビジネスをやりたいという風に言ってくれました。それで会社を辞めて、うちに来たんです。
なるほどぉ。どこかでずっと、インターンの経験が脳裏にあるんですかね。
そうですね、その後何をしていてもふとした時にインターンの事を思い出すくらいの、濃密な時間をインターンで過ごせていたんだと思います。そういうものを提供出来ているという自負はあります。
ちなみに、どんな学生に来て欲しいんですか、会社としては?
ハングリーさを持った、渇ききった感じの学生ですね。何がしたいのか明確には分からない、よく分からないけど、何か飢えてるぞ…みたいな。
好きという気持ちに身を任せて、経済合理性の出来上がる前に動く
じゃあ加藤さんの立場からすると、ある種学生のためという考え方でやっていたインターンの子達が、それぞれに何か思うところがあって、偶然「戻ってきてくれた!」という感じなんですね。

それは、本当にそうですね。
そこまで会社にとっての経済合理性を考えてやっていたわけではなく、純粋に「ハングリーな学生に、濃密な経験をして欲しい」「その学生のアウトプットがインターン報酬や社員の使う時間程度に見合えば、それでいい」というような視点でやっていたので、それが長い年月をかけて、会社にとって大きなリターンをもたらし始めたという感じです。
ラッキー!という感じですね(笑)
でも、加藤さんが好きでやってたから、そういう良いものを提供出来たんでしょうね。
これが、「将来この内の何%かは内に戻ってくるはずだから、採用活動の一環としてインターンでの経験を提供するぞおおお!」みたいなスタンスで、戻ってきてくれる学生の数をKPIとかに置いて進めていたら、なかなか本当に良いインターンを学生に提供出来ない気もします(笑)
はい。それは、その通りだと思いますね。こういうものは、会社にとってのリターンがいつ、どの程度出てくるのか、全然分からないので。

でも、こういう風にインターンが長い年月をかけて採用活動の一環としてうまく回り始めたことだとか、あとはレアジョブという会社自体が何も無いところからどうにかここまでの規模に成長したことって、ある種似たような側面があると思うんです。
どういうことですか?
要は、先ほども言ったように、経済合理性を突き詰めても強みは生まれない、ということですね。
はあ
レアジョブという会社を最初に作った時って、「このSkypeの技術凄いな!!」っていうのと、「フィリピン人の溢れるパワーを日本に送り込んだら凄いことになりそうだな!!」っていう、そういう得体の知れないワクワク感みたいなものが会社を作った本質的な理由だったんです。
得体の知れないワクワク感
明確な経済合理性はなくワクワク感でしかないタイミングだったからこそ、上場まで来れたのだと思います。「オンライン英会話業界、成長している。投資すれば儲かりそう!」といった経済合理性が見えるタイミングは、もはや遅いというか。
ワクワク感を重視して、その活動がたまたま結果論として時代の流れに沿うようなものだったからこそ、大きく成果が出た。これはサーフィンみたいな感覚です。いい波が来るところはロジックで考えても見つからない。感じろ、と。
ほぉ

採用活動がどういう風に成功するか、会社がどういう風に成功するか、計算しきれる範囲のことなんて、一定以上の会社であればどこもやります。本当に差がつくのは、好き嫌い、やりたいやりたくない、ワクワクするしない、そういう段階じゃないかなと。
なるほどですね。
だから、最初の段階では、自分の本能の赴くままに、「なんかワクワクする」という感情のままに海に出るしかないんだと思います。どの人がどんな波に乗れるかはわからないけれど、海に出ないと100%、どんな波にも乗れないわけで。
自分の感覚を信じて行動する時期が長い人生の間に少しはあってもいいと思うんですよね。養うべき家族がまだいないのなら、特に。